パチンコ人生記 回る風車はクルクルと。【4】
☆この話はフィクションです。ここに登場する人物や会社名はあくまでも架空の出来事です。
─大幅新台入替!
営業時間は朝9:00〜夜12:00まで。
店の電気は煌々と365日ほぼ休むことなく、建屋の隅々に電気は流れ続けている。パチンコ店は電気会社から見れば、大口のお客様だろう。
チラッと耳にしたが、1ヶ月の電気代は1千万円を超えると聞いた。そりゃそうだ。1Fにはパチンコ台が約800台、2Fにはパチスロ台が約1000台の大型ホール。立体駐車場が4Fのものが2つ。広い平面駐車場にはシンボルの巨大な電灯タワーがそびえ立ち、それは遠く離れた場所でも目立つってもんだ。
他店のチェーン店「ダイナーモ」なんかは店舗にお金を掛けないので有名だ。体育館みたいな構造物内にパチンコ台を設置している。
そういった店とは全く正反対のいわば少し時代の波に出遅れた感があるパチンコチェーン店がこの店、「バカラ札幌店」。
本社はもちろん関東にあるのだが、北海道にも数店舗持っているバカラグループ。
30兆円産業なんかと持て囃されて、これからも伸びるだろうパチンコ業界。遊戯台メーカーは頻繁に店へ営業を掛けてきては、店長にゴマをする。今が売り時で、まだこの時代は一台10万〜30万円といった相場。
北海道にはエリア長がいて“常務”が北海道を担当している。社長は来たことがないが、常務は大規模な新台入替や小規模な新装入れ替え日など「視察」に来る。
神「常務ってなんて名前なんですか?どんな方なんですか?」(神 優子・古参カウンター女性従業員)
大場班長「知らないよ、俺だってチラッとしか見た事しかないもん」
小林「じゃあ、どうやって挨拶すればいいんですか?誰が常務だか分からなかったら挨拶出来ないじゃないっすか!」
湯川班長「それ、お前自分で判断して挨拶しろよ、しないと店長から怒られるからな笑。」
有田「えーっ!知らない!私、挨拶出来ないかもー!だって班長が見た事ないなんて言ってるんだったら私達だってわからないわよ!ねー。」(有田佳江・古参女性従業員)
湯川班長「よっしー、お前のせいで怒られたら全員連帯責任だからな、居残りだぞ。ウチの店長も恐れる人だからな常務は。」
有り得ない。常務の名前も教えない、どんな人かわからない人物に挨拶しろって。大人の事情?
湯川班長「よし、時間だ!整列!」
ザザーザッ!スタッフルームの壁側に沿って全員が並び立つ。
その後の朝礼で、本当にその通り班長は言った。
湯川班長「おはようございます。えー、〇月〇日月曜日朝礼を行います。今日はかなりの台数の新台入替なんでみんなね、気合い入れて仕事の方を行ってください。間違っても通路でボサっとしてたりしないようにね、呼び出しランプがついたらお客様の方を待たせないで、走ってね行動するように。モニターの方で見られたらインカムに注意入りますんで、そのようなことのないようにね。あと今日は常務と他店の店長さん達がお見えになってるんで必ず、お辞儀と常務おはようございます、ご苦労様です。を言って下さい。常務を知ってる従業員がね、分からない従業員に教え合って従業員同士全員で確認して置くことをよろしくお願いします...あ、あとインカムで訳のわからないこと言わないように。事務所内で常に全員の話すインカムが流れてますんで、店長に突っ込まれますんでね。変な事言われないようにして下さい。挨拶の方は全員必ずするようにしてください。あと私語ね、従業員同士のお客さんとの会話は絶対しないで下さいね、勘違いされたら困りますので。それとホール内、遊戯台のゴミ清掃、しっかりと綺麗に行ってください。それとゴトの方ね、不審人物いたらすぐにインカムの方で知らせてください。えー、今日はねお客様も沢山並ばれてますので、マイクの煽りの方も止めないで館内活気づけてお願いします。以上です。大場班長の方からは?」
大場班長「特にないです。」
湯川班長「じゃあ、店訓は...小林くん!」
小林「はい!」(クソ湯川のヤロー...えらそうに長々と)
小林「店訓いきますー!ひとーーつ!○○○○ことー!」(ほぼ怒鳴り声)
従業員一同「ひとーーつ!○○○○ことー!」
小林「ひとーつ!従業員同士の私語またはお客様との立ち話は慎むことー!」
従業員一同「ひとーつ!従業員同士な私語またはお客様との立ち話は慎むことー!」
(店訓は続き、スタッフルームでの怒鳴り声は外で並んでいるお客さんにまで聞こえた…)
新台入替開店9:00スタート!
客の並びは好調で約500人以上の客が玄関口に待っていたが、開店BGM「TRUTH」が流れてスタートした一瞬に怒涛の勢いで館内へ客が流れ込んできた。
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パチンコ店の開店サウンドは重要な役割を持っている。昔ほとんどの店舗で使われていたのは「軍艦マーチ」だ。これは戦闘意識を高めるセールスプロモーションBGMの効果がある。
「勝つぞ!」「負けないぞ!」「金をどんどん使うぞ!」と財布からお金を出させる効果が見込める。BGMで売り上げが上がるのだ!逆に落ち着いた感じのリラックスしたサウンドをかけてしまうと、客の消費力が落ちてしまい売り上げが下がるという実験結果も出ている。
T-SQUAREの「TRUTH」はフジテレビ系列のF1で有名だ。誰よりも早く優秀台を取る!競走だ!曲としては丁度良いかも知れない。
あとはサイバーテクノ系、Darudeの「Sand Storm」などテンポの速い曲で客の脳内を刺激する。恐ろしいよ、音楽は洗脳的マジックだ。
俺の通ってるお気に入りのパチンコ店のBGMは a-haの「Take On Me」だった。その店変わった選曲でさ、とても印象深いんだなぁ。あとQueenの「I Was Born To Love You」とか。
開店BGMは色々あるから、そこの店長の音楽センスにかかってる。俺はF1は好きじゃなかった。バカラ札幌店の店長猪田が「TRUTH」を使っている理由は、他店の有名グループが同じ「TRUTH」を使っているから...だけだった。つまり音楽での営業戦略は全く考えていなかったと思う。閉店の曲は定番の「蛍の光」だし…。
一度班長に聞いたことがある。開店時のオープニングミュージックについて「TRUTH」を変えないのか?お客さんから「飽きた」とよく言われますよって。
班長は俺の提案を進言したらしいが、
店長は一切耳は貸さなかったようだ、無能だ。もっとさぁ、プロレスレスラーの入場曲とかで橋本真也の「爆勝宣言」とかアントニオ猪木の「炎のファイターINOKI-BOM-BA-YE」とか、三沢光晴の「スパルタンX」、長州力の「パワーホール」とか、あーとUWFのメインテーマ曲と、天龍のテーマ・高中正義の「サンダーストーム」なんかさぁ、いくない?
あぁ、つまらない店...。
(昔はユーロビートとかでしょ、懐い。今じゃEDMでしょ?時代は変わりゆくものだね。)
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さて、パチンコは3分の1を新台に、スロットは約152台の大幅新台入替、そしてスロットは等価交換1枚=20円貸しだが、パチンコの1玉=4円貸しで換金率を1玉=3円【交換】だったのを、等価交換4円に変えてのオープンだ。だからホールコンピューターも変えて、機材も新しいものに変えたらしい。
こんな時、トラブルは絶対起こる。
「いらっしゃいませーいらっしゃいませーいらっしゃいませーいらっしゃいませーありがとうございますーいらっしゃいませー」
早くも呼び出しランプが各島にどんどんと点く。
「業務連絡します、当店班長1F○○コーナーまでお願いします!」
「了解しました」
「業務連絡いたします、当店班長2F中央〇番両替機、紙幣詰まりエラーですお願いします!」
主任「業務連絡ーッ!当店班長、私行きますのでー」
班長「了解しました、お願いします」
もう、インカムのラッシュラッシュ!フラッシュバック!あっちでもエラー、こっちでもエラー。そっちは玉詰まり、スロットのメダルセレクターエラー。新台の液晶のエラー。出玉供給システムのエラー。
普段から手抜き作業ばかりやってるからこんな調子。
全館てんやわんやで、とうとう常務らもホール内に出てきた。各遊戯台のメーカー達が立ってデータを取ってる。
新台入替では出玉を出さなければいけない。といっても大赤字でも困る。初日は微妙な赤字でなければいけないのだ。
しかし実際数字通りに上手く行かずに...まず出ない。出したいはずの出玉が出ない。
店長は当然メーカーに文句をつける。「どうなってんだ?!おい!」と。
もう平謝り、ペコペコだ。 出しすぎると、この時代のパチンコパチスロは爆裂連チャン機ばかりだったので、とんでもない事故が起きる。パチンコなら5万発〜10万発は出る。
それはそれで困るんだな。
本当にパチンコ店ってめんどくさい。数字との戦い。不正行為(ゴト師・内引き)との戦い。
営業はまだまだ始まったばかり、この後何が起きるやら。そんな俺は1人の従業員から呼ばれた。
「業務連絡します!小林係員、ミルキーバーまでお願いします!」
「了解しました」(あぁ、あいつだ、しかもミルキーバー。嫌な予感を感じながら、走る...)
次回【5】へ続く