kemoxxxxxの日記

kemo cityからの脱出

白い悪魔 下僕の告白

“Junk is inoculation of death that keeps the body in a condition of emergency. ”

「麻薬は 体を非常事態に保つ予防接種である」

ウイリアム・S・バロウズ  1914.2.5 - 1997.8.2

この話はフィクションです。一部過激、または不適切な表現が含まれております。

この眠り、気持ちのよさは最高である。

「起きなきゃ…だめだ。体がいうことをきかない。体を動かそうとしてるのに。ジッとしているだけで、この体全体を纏う快感、気持ちよすぎる。全身に流れる血液がゆっくりと流れているのを心地よく感じる。まるで血管の内壁が性感帯であるかのように気持ちがよい。ああ眠い。」

早番で17時に仕事が終わると一目散に家路と向かう。

そして快適に眠るための準備をする。ごく一般的な衛生を保った枕と敷布団と掛け布団。睡眠中の過度な発汗があった場合の為、枕元に着替えやタオル、水分補給のアクエリアスなどを用意。眠りを誘発させる為のアルコール類。

そして休みの日は全ての時間を眠りに費やすのだ。

友人、彼女との約束もほったらかし先延ばしで。

もうかれこれ白い錠剤は1日84錠以上服用している。

168錠ほど服用した日は嘔気を感じるとトイレに駆け込み嘔吐する。その後職場のロッカー室で仰向けになり、酩酊状態になる。それは恍惚感を感じるほどだった。

当時、俺のパチンコ店での勤務は店長はほぼ1日店を留守にする為、1人店舗を任される中間管理職の身であった。

インカムから聞こえる従業員の声が耳から入ると、その音が脳内をやまびこのように駆け巡り、それが脳の奥で反射し目を瞑った眼球の瞼に跳ね返り幾何学的な模様が描かれた。それがさらに中枢神経を軽く揺さぶり骨を振動させた。

カウンターや両替機、台や客のトラブルがなければ、俺がホールに出向く必要もない。事務所に電話がかかって来たって知ったこっちゃない。

このまま大の字で静かに横たわってていいのだ。まるで夢見心地だ。

事務所のソファーで眠らないのは突然店長が現れたら困るからである。

フロア担当従業員の2人には体調が良くないからロッカーにいると言付けてあったが、ほとんどの従業員は俺が薬をやっているのは知ってるはずだ。

ロッカーでは隠れてウォッカを飲みながら仕事をしていた従業員Uもいたが、注意もせず意気投合し、たまにウォッカを分けて貰った日もある。

他の従業員にも日々うまくサボらせて気を抜かせているし、店内での悪さにもある程度目をつむったりして、休みのシフトも都合つけてやっている。

お互い損得勘定で仕事をしていたので、誰1人として俺のことを店長にチクリを入れる奴などいなかった。

仕事のフォローもしてやって上手くやってるつもりだった。そうだ、そうだったはずだ…!?

ハッと目が覚める。

暖かい布団の中にいた。

ああ、なんだ夢を見ていたのか…それにしてもなんて気持ちがいいんだろうか。このまま死んだっていい。

隣の部屋から母親の小言が聞こえる。

「まったく何時まで寝てんだろうね。死んでんじゃないだろね。また変な薬でもやってんじゃなかろうか…」

たまには早めに起きないと駄目かな。またバレるな。でもここからが長いんだ、油断するとまた眠りに入ってしまって半日は絶対目を覚まさない。

一番多いルーティンは早番から帰宅して母が作ったつまみで晩酌をする。

晩酌を終えたら風呂に入り、体が温まり軽く酔った状態から眠るので、だいたい22時には布団の中に入っている。

CDをかけながら眠りに堕ちるが、時間はそうかからない。眠るまでの間は寝返りもうつことなく、ジッと固まったままである。これが咳止め薬の副作用。仰臥位で呼吸は深く、心身はまるで瞑想をしているかのごとく脳内は虚無である。

そうそう、その前に一服。セブンスター1本を取り出し火をつけ、煙草を楽しむ。咳止め薬のオーバードーズの利点は煙草がとても旨いことにある。

眠りに入ると、そこからトイレも行かずに朝を過ぎて、昼、夜を迎え、深夜から明け方、再び朝になり、昼、14時頃仕方がなくやっと起き出す。

睡眠時間は28時間になる。

すると体全身が鉛のようになっていて、やっとの思いで上半身を起こすと長座位のまま石像のように動かず。

目を見開いたままただ一点を見続ける時間が20分は必要。

体を動かすために咳止めの瓶から30錠ほど手のひらに取り出し、口の中に放り入れ、手に届くところに置いてある2ℓ入りアクエリアスでごくごくと流し込む。

トイレで小便をすると、工場から出る廃液のような錆びた茶色をしていた。こんなのが自分の体から出てくるとは信じ難い。機械的な強烈アンモニア臭。

薬が効くまでに5〜20分はかかり、効いてくると再びカッと瞳孔が開くと体の関節は先程と打って変わったようにすこぶる動くようになり、筋肉のダルさも消えた。シャワーを浴び、食事を摂る。

16時までにタイムカードを押せば良いので、15時45分には家を出たら、タクシーで店まで向かう。だいたい1メーター超えるくらいで到着する。

タイムカードを押して、ロッカー室に入ると咳止めをさらに20錠ほど追って体内に入れる。

そしてロッカー中の隠し扉にあるCDケースを取り出し、その隙間からパケを取る。小粒の白い塊をケース上に乗せ、慎重かつ丁寧にPVCで出来たどうでもいいような会員カードですり潰す。注射器にそれをメモリ4まで詰めて、水を吸わせる。トイレに移動してから薬液ツメ4を血管に注入する。

それまでの集中力といったら半端ない。

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浮き出た血管に針を入れて、血を吸わせた瞬間シリンジ内に血液が舞い、その瞬間エフと呼んでいた冷たい息がフッと口から出て、一気に薬液を押し入れる。すると頭がスっとクリアになり、体が軽くなる。

そして血液が頭へといくとこめかみにかけて頭がパンパンになる。視力がグンと良くなったようにもなる。CDケースと会員カードについた粉の残りを綺麗に指にとって歯茎に塗り込む。

咳止め薬を併用していたのは、挙動不審からの不穏にならない為である。俗に「ケボる」というやつ。

今でこそインターネットのせいで、Twitterだとかダークサイト・闇サイトやらで氾濫し出回り、猫も杓子も入手可能になった覚せい剤だが、当時1998年で売買は手渡し。一般人は口コミで入手ルートを探していた時代。

しかもグラム1万。

というけれども、実際中身は0.7とかだったりするが、今じゃ考えられない破格な値段である。

入手ルートはH氏を通じてやって来る、セルシオ乗りの通称「セル男」。他と比べ良心的な売人だった。

この覚せい剤をやっていた期間は2年程度だった。いつまでも続ける気はなかったし、続けていれば必ず捕まるのは分かっていた。

なので、自宅にパケを置くより職場に隠す方がリスクはないと考えた。やり始めた時冷蔵庫に冷やした注射器をお菓子の包みにくるんで隠していた。そしたら母親が間違えて開くと注射器が出てきた。

本物ではないと言い、今度の飲み会で一芸をする為の小道具だと無理くり説明説得し納得させたことがあった。だから家には絶対に置かず、休みに入る前には店舗のどこかに置き、その隠し場所を毎回何度も変えた。

ジュース倉庫の奥に小さな物品倉庫があり、クリーニング済みの使用予定がない制服のポケットにパケを分けて入れたり、喫茶のVIPルームに隠したり、台の裏の島中に入りテープで貼り付けたり、仕舞いにはアルゼ(現ユニバ)のストップボタンを分解して、その隙間にパケを忍ばせたりもした。

考えれば考えるほど異常な行動だ。

だが何よりブツを所持して移動するのが一番危険で職質を一番恐れた。

休みの日に友人と使用する為に持ち出した。新台入替の出番で深夜出勤し、作業を終えてワイシャツ姿でバナナを食べながら、立体駐車場を徒歩で出ようとした時、出口で赤灯が見えた瞬間、足元から何かが頭上を貫くと一気に動揺がはじまった。

なぜこんな時間に駐車場にいるのか?などと質問され、パトカー車内に誘導された。なんで今日に限って!と思いながら乗る。

その時パキパキだったはずなのに、なぜか身分証提示だけで済んだ。極力冷静を装ったのと、この店の従業員だと分かったから甘かったのか?

うちの店は車上荒らしが多く、深夜で薬物の売買もあり定期巡回していると言っていた。そういう事情も把握しているし、先日ゴト師を捕まえ警察に引き渡した話やら、多弁だったはずなのに。匂いにも気づかなかったのか?

でもあの時は「御用」を覚悟した。ケツポケ長財布の隠し開きにパケは入っていたのだから。

またある時は全館大幅新台入替があり、ガンギマリで事務所にいたら換金所から6千万必要の電話が届いた。人員が足りなく、本部にFAXを送ってから、護衛の従業員をつけて警棒を持ち現金袋に6千万分の万券と五千券、千円束を入れて運びに行った。

なぜかハイテンションになりキマッたまま大金運んで大丈夫か?と思った時もあった。

また、一度大口の売買があった。店舗の駐車場で10グラムのゴロネタを取引した。

それを買った従業員の相棒Aがいた。まとめ買いがお得で、8万で取引した。

河川敷に落ちてる石ころ位の大きさだった。秤で計り半分ずつに分けた時に、その日ひとまず自分の分は自宅までその5グラムをどうしても運ばなければならない理由があった。

その移動手段にタクシーを使用したが、さすがに全身の穴という穴から汗が吹き出て、周囲をキョロキョロと確かめていた様子はさぞ挙動不審だっただろう。

タクシーの運転手ですら内偵のサツかも知れないと疑心暗鬼になり、途中で降りてタクシーを何度か変える。電話は盗聴の可能性があるので、電話で呼ばすに走っているタクシーを拾う。地下鉄も合わせて使ったりした。

そしてすぐ家には帰らず、わざわざ時間をかけて遠回りして自宅方向へ向かってから自宅前では降りずに、わざと家よりやや離れたところで降りてから尾行がないかを確かめた上、急いで自宅の玄関へと滑り込んだ。

その間、手のひらは汗まみれでズボンを何度もさすりシワになり破れかけて、歯をずっとかみ締めていたせいで口の中も切れていた。

これがシャブ中の奇妙な行動なのである。

白い悪魔は2つある。

ひとつは覚せい剤のことだが、もうひとつは虜になった咳止め薬のブロン錠のことである。

睡眠薬を使用せずとも2日も3日も眠れる。これが悪用した際のブロン錠の副作用だった。

でもこの眠れる感覚とは体が若い時と耐性がついてない時に起こる現象で、連用を重ねると眠れなくなってくる。

この時はまだ知らない。

覚せい剤とブロンの併用はこの後、 思いもよらないことを起こしていく。

つづく