パチンコ人生記 回る風車はクルクルと。【5】
☆この話はフィクションです。登場する人物や会社名などはあくまでも架空のものです。
─疲れた仕事の後のビール
「どうした?」
太田「あのぅ、大当たりしたみたいなんですが、出玉が出ずにすぐ終わってしまったみたいで...」
俺(小林)「またパンクしたんじゃねーのか?」
俺「失礼します、どうなされました?」
高齢男性客(常連ではないがたまに来る)「数字揃って1回分しか出なかったぞ、3回権利物だろコレ!ちゃんとここに入れたぞ!オイ!」(権利発生の入賞口をガラスの上から叩く)
ミルキーバーは1995年にニューギンから出た現金機3回権利物で、まぁパンクトラブルが多い。一番多いのはCRモンスターハウスで大当たり中に突然大当りの入賞口のオープンアタッカーが、エラー画面が発生して閉じてしまう(原因不明)。オープンアタッカーが閉じてしまうということは出玉が出て来ないということだから、客は台の上部にあるナンバーランプを押して従業員を呼ぶ。この店のトンデモナイ決まり事というのが、出玉補償無しという事だった。
まずはどういう流れで大当たりしたか?権利発生させる為のアタッカーに玉を入賞させたか?客の誤魔化しがないか(不正)?
お客さんへ大当たり発生時の状況を細かく聞き取り、ミルキーバーの機種説明に入る。
当然、事務所では店長も主任も見ている訳だし、班長も知らん振りしてホール巡回している。
ここが担当としての腕の見せ所であり、客を説得し納得させれば「従業員として有能」と言われるおかしな話だ。
『お客さんに損をさせるパチンコ店』
それでも客商売かー!と俺は怒ってたよ。
十分に客の言い分を全て肯定してあげて、「うんうん」頷く。客の怒りを鎮めるテクニックだ。客にとことん文句を吐き出させる。その上で俺はこう説明した。ここからは息を止めずに一方的に一気に喋る。
「お客様の言い分はごもっともでございまして、こちらとしては遊戯台の故障であれば出玉の補償はさせていただきたいと思っております。補償対象になりますのは当店従業員が大当たり発生とパンク発生を目視で確認するか、当店のホールコンピューターで実際に遊戯台の異常が確認された場合だけでございまして、基本的に当店のルールに起きましては、天災やまた機械の誤作動(矛盾w)、またお客様のお間違いによる遊戯方法、その他全てのトラブル事由につきましては、当店では出玉の補償は一切お断りしております。それは館内マイク放送でもご案内しておりまして、当店のルールとして玄関口にご案内として、立て看板をかけさせて頂いております。非常に残念でございますが、今回のケースで出玉の補償はお断りさせていただきます。どうかご了承ください。」と言って深々頭を下げ、すばやくその場を去る←重要(めんどくさいのか、客は諦める)。
するとまたナンバーランプを押されて、客に呼び出しを食らう。
まあ、5割は納得しない。当たり前田のクラッカーだ。
他の担当はどう説明しているかはわからないが、言い合いに発展して客が暴れる事もある。本当にお金がからむと厄介だ。
今回の客は粘る!引かない!とうとう怒鳴り始めた。
仕方ない、班長呼ぶか。まだまだ客との交渉レベルが上達していないなと反省する。
大場班長が来たらいいんだけど(優しいから)、
湯川班長「了解しましたー。今行きます。」
アチャー。
湯川ってね、客の前で偉そうに俺たちを叱る。
でも湯川はたいていの客を説得しトラブルをおさめる。
しかし今回は結局湯川も説得出来ず、モタモタしてると、
店長「おい!どうした!ミルキーバー!」
湯川班長「(事情を説明...)」
店長「班長事務所まで」
湯川班長「了解しました。」
その間、客の文句と愚痴を聞き流す。数分後湯川が事務所から戻ってきた。
湯川班長「今回は特別に出玉の方を補償させていただきますので、よろしいですか?」
えーっ!?エコヒイキだろ?!
「出玉補償」の声に反応して周りの客の視線が一気にこちらに集まる。そりゃそうだ。出玉補償無しで超有名なホールだ。ゴネたもん勝ちか結局。ヤクザなルールだよな。
汚いよ、上の人間はやり方が。
湯川班長「コバ、おまえホール回れ、後やっておくから」
俺「わかりました。」(超腹立つ、お前らはナニヨ、神か?)
あ!ホール巡回の際にめっけた、『常務』。
皆んなのとこへ走り回り、直で知らせる(インカム使用駄目!)
俺「常務!おはようございます!ご苦労様です!」
常務「はーい、ご苦労さん〜」
もうね...スーツ来た人間多すぎて、パチンコメーカーと他店の店長、常務が区別つかないのよ!かんべんしてくれよー💦普通のおじさんでオーラが見えない。この人さー本当に偉い人なの?
柳沢「業務連絡いたします!小林係員、CRモンスターハウスまでお願いします!」
俺「了解しました。」
来たよ、モンスターハウスはパンクの王様。 自力テクニックでパンク回避する事はできる。
インカムのボタンを押して俺「業務連絡します!72番台、小林開けます!」
遊戯台を鍵で開ける時に必ずインカムを入れなければならない。鉄則である。覚えが悪い従業員はインカムを入れないで鍵を使って、そのままサクッと開けたりする。だから新人は当分台鍵は持たせてくれない。
そんな時にモニターで見られていたらOUT!遊戯台にはセンサーが付いていて、開けると事務所のモニターのカメラがズームになる。だいたい店長がモニターの前にいるとバレる。うるさい。
店長「ガタゴト..(事務所マイクの音)、おい!主任!事務所まで。」
主任「了解です!」
店長「お前ら従業員ちゃんと指導してんのか?」と長い説教が延々と始まるらしい。
そして主任は班長を、班長は俺ら担当に説教する。 全くたまったもんじゃないよ。俺ら担当は従業員同士は軽く口頭で「凄く怒られるからさ、気をつけてよね」ぐらいしか言えないからストレスが溜まる。
エラー解除の仕方はメーカーによって違う。モンスターハウスの場合は液晶がエラー状態の時にアタッカーを指で開いて、両指にパチンコ玉を1個ずつ指で持つ。
息を止めて、アウトゾーンに玉を1個流したと同時にVゾーンに玉を落とす。タイミングが命なんだな、もうね覚えるまで感覚だったよ。成功すると大当たりラウンド途中から始まり、窓ガラスを閉めて客がホッとして打ち出し出玉がジャラジャラ出てくる。 「ごゆっくりどうぞ。」客は笑顔で楽しむ。
エラー解除が失敗するとどうなるか?そこで大当たりは終わる。確変中でも終わってしまう。強制終了になるのだ。
モンスターハウスのエラー解除のコツを掴むのは本当に苦労した。たまに従業員で担当や班長を呼ばずに勝手にエラー解除をする奴がいる。そうなったらもう困る。だって出玉補償できないんだよ?やめてくれよ。
大掛かりな新台入替初日も何とかやり過ごした。 終礼も、またどウゼェ位にうるさくなんだか言われたが、もう知ったこっちゃない。あー、ストレスたまるわー。
こんな日の仕事終わりは帰りに居酒屋で一杯ひっかけないと!案の定、宮下(古参女性従業員)がみんなに声をかけていた、飲みに行く話をしている。
宮下「ねーねー、コバピー白木屋に行かない?米村さん達も行くってよ!」
小林「白木屋かぁー。いつもの酒場でいいじゃん。ダメかね?焼き鳥屋。」
宮下「そうする?最近白木屋ばっかだったしね。そういえば仲良いよね、湯川と。どうしたの?」
小林「嫌だって俺も。表向きそうしないとさぁ。あ、下ちゃんは?来る?」
宮下「誘ったよ!来るって!金ちゃんにも誘ったんだけど来るかな〜」
パチンコ店の従業員の男女関係はかなりズブズブである。俺の新人歓迎会の時、2次会のカラオケ店でエグいシーンを見てしまったからな。個室でお互いに彼氏彼女いるのに○△✕やってた。
俺は今彼女はいない。今は仕事で精一杯。
店の従業員にも気になる人はいないかな。いや職場恋愛は嫌だ。あ、俺の見た目?中肉中背、顔は普通かな。醜男ではない。でも異性にも同性にもモテないんだな(笑)。女性関係では積極的な方ではないからね、なんかね聞くと第一印象が怖いらしい(笑)。
そういや、岩佐さん明後日から出勤するらしい、いい人っぽそう。噂では俺が岩佐さんを潰したとか言ってるけど、そんなつもりで仕事を教えた訳じゃない。 真面目だから仕事に対して真剣になっただけ。
早番連中がだいたい集まった。人付き合いの良くない従業員もいる。そんな従業員は飲み会には絶対参加しない。今日も早く帰ろうと思うが、ハシゴしちゃうかもね。とりあえずビールが飲みたい。
俺は宮(宮下)の車に乗っていくことになった。湯川に声掛けてみたがやはり来ない、あいつカッコつけ氏だから。大勢集まるとこには来たがらないんだよな。
いつも来る細々した屋台が集まるテナント、○○酒場に着いた。
宮下「停めるとこ、いつもの道銀のウラでいいよね?」
俺「そうだね」
ちなみにこの宮下という従業員、お世辞にも可愛いとはいえない。愛想がいいだけにとても残念だ(笑)。
入店したあと続々と早番連中が集まる。カウンターが全員で埋まった。
「みんなナマでいいよね?」 「私はウーロンハイ」「俺は生でいいかな?」「うんビールで」
店の大将「あいよ!生大7にウーロンハイ1丁ね!」
カンパーイ!お疲れさまー!カンパーイ!
ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…息を継がずに半分ほど飲み干した。
「フゥぅぅぅーーー!」
美味い!一口目のビールってなんでこんなにうまいんだろう…。
さあ、皆の愚痴タイムが始まる。今夜はどんな話が展開だろうかワクワクする。
次回【6】へ続く