kemoxxxxxの日記

kemo cityからの脱出

パチンコ人生記 回る風車はクルクルと。【2】

☆この話はフィクションです。このストーリーの登場人物や会社名などは架空の人物と存在です。予めご了承ください。

-新人が入社してきた

煙草のヤニ色になった一面の壁。ここはスタッフルーム。

会議室によくあるような長机を2脚並べて、パイプ椅子が周囲に置かれただけの殺風景な部屋。

ホールの外装・内装こそ多少は小綺麗なのに、裏方の通路や部屋作りはとても雑だ。パチンコ店の建て方は突貫工事だから手抜きが多い、元現場仕事をしていたからよーく分かる。

そこには灰皿が何皿もところどころにおいてある。従業員の喫煙率は95%以上。ほぼ皆煙草を吸うから、嫌煙者からしたら苦しくて仕方がないだろう。

だけどそんな時代。煙草が安かったそんな時代。

セブンスターが280円。

朝礼が始まる。体育会系式怒号の店訓を終えたら、みんな各々開店作業に散らばる。

女性従業員2名がカウンター作業へ、1名は喫茶店へ。

残りの男性・女性従業員はドル箱を各台に並べ急ぐ。開店作業は以外とのんびりしてられないのである。やることは沢山ある。台枠閉めなどなど相手は1Fパチンコ台と2Fパチスロ台、合わせて約1,800台。それを4〜6人程度で行なう。

サボっているのは白ワイシャツにネクタイ姿の「班長」と事務所で自分の机の上で、うたた寝している「主任」だけ。「店長」は昼出勤だなんてつい最近まで知らなかった。偉いヤツらはそれなりに忙しいものだと思っていたからね。

やることと言ったら、1千万円分の釣り銭の千円札の札束と500円硬貨を両替機に詰めて、3千円と5千円のパッキーカード販売機にパッキーを補充。

終わったら従業員の監視とスタッフルームで一服。全く、呑気なもんだ。だが従業員にもサボる奴がいるんだな、これが。

俺はここに入社して1ヶ月過ぎた。俺の名前は小林健一。高卒で前職は建築業。3年間キッチリ勤めたが、突然外で働く現場仕事が嫌になった。サービス業などの経験は無かったが、悪くない。仕事では雨の日も濡れないしな。

B型(血液型性格判断は信じている)で頑固で職人気質な俺は仕事をよく真面目にこなすため、一人の班長から過大評価を受けて従業員のまとめ役「リーダー」担当に指名された。古参の従業員を差し置いてだ。当然仕事はやりずらくなった。「なんで俺らを差し置いてアイツが担当になるのよ!」「ムカつくってマジ」「年下の癖に」とか陰口叩かれて。

それでも慣れだ。もう慣れた。構っちゃいないそんな仕事の出来ねぇオッサン共が。

ちなみに担当は役職でも何でもないから、給料に手当金などは出ない。班長は役職手当が出る。

あと担当は従業員よりある程度重要な仕事を与えられるので、ヒラの従業員より余裕を持って仕事が出来る。班長の目を盗んでサボったり、またインカムで休憩を回すのも担当の仕事。ある程度好きが出来るが、その代わりに責任ある立場とも言える。

まず1Fパチンコフロアの担当従業員は各島の出玉供給システムのコンピュータの作動、他店だとパチンコ玉はポリロンという研磨剤で洗浄するのが一般的だが、ウチは布式研磨機を使用していて、巨大な分厚いトイレットペーパーのような布をセットし、そこをパチンコ玉が通過し汚れをとる。毎日新しい布に交換するのは担当が行なうことになっている。

各島ごとに布式研磨機が付いているので結構大変な作業だ。しかもこの布交換を間違えて交換してしまうとと当然玉詰まりが起きて、大変なことになる。パチンコ店にとってパチンコ玉は人間でいう血液だ。血管の中で血が詰まったら当然機能しなくなる。だから一般従業員にやらすことはできないのだ。

2Fパチスロフロアの担当従業員はメダル洗浄機の始動を始める。そしてパチスロ台のメダルタンク、ホッパーと呼ばれるメダル払い出し機からメダルを回収ボックスへ流れるベルトコンベアに流し、メダル補給の為のメダルを作る。最後にメダル供給システムの作動、誤作動を点検確認する。

一般従業員の開店作業終了報告を受けたら、1F、2Fとも一番重要な窓・台枠のチェックだ。フロアの担当が1人で一台ずつ手で触って確認していく。完全に閉まってない時がよくある、空いてると各台にセンサーが付いているので事務所ですぐ分かる。事務所で気が付かれると注意されて、担当者は班長や主任に怒鳴られる。そんな手抜き従業員と一緒の日は本当に勘弁して欲しい。

仕事がトロくさい従業員は、本当に終わってる。やめて欲しい。何しに働きに来ているのか?古株の一部の従業員はさ、もう諦めモードだからテキトーに仕事するんだよ。まじむかつくわ! トラブったら100パー班長から怒られ、主任にも怒られる。

担当の仕事が慣れて楽になって来た時が、一番油断大敵なんだな。 客商売、ましてや鉄火場のギャンブル場だ、毎日がサバイバルなんだよね。

やがて開店時間を迎えて、1Fと2Fの玄関口に従業員を立たせる。この時自動ドアの上部の角の隅っこのオレンジ色のスイッチをON・OFFするんだが、ボケーッと突っ立ってる従業員だと9時の開店前に客を入れてしまって、客は台に座り遊戯をはじめてしまう。

こうなると厄介だ。当然上から順番に怒られる。色んな人間がいるから大変なんだよな。

開店すると朝一番から常連のお客さん、若者、お年寄り、続々とやってきて好きな台に座り遊戯が始まる。

有線が流れ、館内には開店放送のマイクアナウンスが始まり、従業員はお客さんの呼び出しランプに追われる。

基本的な人員配備は1Fフロアパチンコホールに約800台のパチンコ台に対して担当1人に従業員が2人〜3人、多い時で総勢5名。

2Fフロアパチスロホールにはスロット台が約1,000台。担当1人に従業員が2〜3人。多い時で総勢6〜8名。これは本当にスタッフが沢山いた一瞬の時で、現場は常に人員不足に悩まされていた。

従業員の入れ替わりが異常なほど早いのである。募集しても来ない、来てもみんな続かない、辞めていく。ウチはアルバイトは雇っていない。みんな正社員雇用だ。入社したその日で退社したり、消える奴もいた。

パワーハラスメントも存在し、店長から主任から、班長から辞めざるを得ないプレッシャーを与えられたり、辞めさせる環境作るという噂も聞いたり、そんな場面を目撃したり。

「 大人のいじめ。」● ● ● ● ● ●

慣れてくると、だいたいこの会社の内幕がわかってきた。この店は長く勤めてはいけない会社だ。

ホール館内では難聴になるくらいの激しい爆音を聞きながら、インカムで指示を出したり、受けたり。

はっきり言って辞めたい、俺も今すぐ辞めたい。

「でも、いきなり辞めたら…他の人にしわ寄せがかかって、すごく困るだろう。しかし1ヶ月前に辞めます予告して、班長や主任から嫌がらせを食らっていた従業員もいたしな...」なんて考えたりして、いつ辞めようかヤメ時を図っていた、とある遅番の出勤だった。

遅番の朝礼に新人がやって来た。 男だ。背が高く痩せ型で普通の顔立ち。ま、どちらかというとモテそうな面だ。

仲の良い従業員達と新人の話で湧き立つ。

「どうだあいつ辞めると思うか?」「俺は続くと思うわ、だって大卒取るの珍しくね?」「いや、まず足壊すだろうな」「でも人足りねえし、辞めてもらったら困るな」「どうでもいいわ俺は」「ねーねー、昨日の水曜どうでしょう?みた?」「俺遅番続いてるし見てねーよ」「それこそどうでもいくねえか」

女性従業員でも話題になっているだろうが、すぐにそんな話は沈静化するってもんだ。

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班長「おはようございます!」

従業員「おはようございます!」

班長「〇月〇日〇曜日朝礼を行います。最近ゴトが他店にも回ってますので、島通路内巡回の際には必ずお客様の手元を十分注意して下さい。景品割の方で数字の誤差がコンピューターの方で出てますんでね、必ず出玉の不正が行われています。ゴトの方十分注意お願いします。あとジュースの空き缶やタバコのゴミなど、空き台清掃なども速やかに行って仕事の方をお願いします。それと早番との引き継ぎね、担当間でトラブルあったこと、あとで間違えのないように話の方しっかりしておいて下さい。あとは従業員同士とお客様とのね、お喋りとかね、私語は絶対やめてくださいね。最近特に目立つので。店長の方からキツく言われてますので。それと礼の方も浅いと言われてますので、必ずお客様に礼をする時には角度しっかり付けてお願いします!えー、あと主任の方からどうぞ。」

主任「えー、私の方からなんですが、ゴホン、今日から新人の方入りました。岩佐くん、前に来て...」

岩佐「はい。 ...はじめまして。岩佐といいます、えーパチンコの仕事は未経験なのでどうぞよろしくお願いします。なるべく皆さんの足を引っ張らないように頑張ります。」

従業員一同「パチパチパチ…」

主任「じゃあ岩佐くん、みんなの列に戻って。分からないことはね、みんなで丁寧に優しく教えあって仲良く楽しくね、仕事の方を行なってください。私の方からは以上です。」

班長「はい!じゃあ、店訓...えーと、佐々木さんお願いします。」(佐々木古参男性従業員)

佐々木「店訓行いますー!!!ひとーつ!従業員は・・・することー!」

従業員一同「ひとつ!従業員は・・・すること!」

(店訓は全部で6項目。それが終わると挨拶の号令だ。)

従業員一同の掛け合い「いらっしゃいませ!」「失礼します!」「どうなさいましたか!」「少々お待ちください!」「はいどうぞ!」「どういたしまして!」「ごゆっくりどうぞ!」「ありがとうございました!」「またのご来店お待ちしております!」

全員で「今日も一日よろしくお願いします!」

スタッフルーム外から聞こえるほどの怒号で行わなければならない。

声が小さい、元気がないと、主任や班長からやり直しを喰らうのである。

あと彼ら(班長・主任)の機嫌が悪い時ね!

さぁ、早番との引き継ぎである。

班長「小林くん、」

俺「はい?」

班長「今日岩佐くんに仕事教えてあげて、色々説明してさ、...それからあとで...」

俺「あ、はい分かりました。(1Fパチンコホールか...大卒のアンちゃんには、キツいぞこれは。)」

俺は岩佐さんを引き連れ、1Fパチンコホールへ降りていった。

次回【3】へ続く...

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